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おおたみんなの家の園長ブログ

三歳児神話

 2か月以上も更新せずに失礼しました。

 

 さて、いまだに日本社会に根強く残る「三歳児神話」。みなさんはどのようにお考えでしょうか。日本では、98年の厚生白書に「3歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない」と明記され、この歳から0~2歳児の保育を正式に制度として位置づけました。

 この神話のもとになったのは「愛着理論」だという研究者がいます。愛着理論とは、英国の精神医学者ボウルビィが60年代に提唱したもので、乳児は2歳ごろまでに、泣き声などに応答してくれる少数の養育者と愛着を形成するのが大切だという考え方で、これは今でも否定されていません。この愛着理論の中でボウルビィが使った「母性的養育(maternal care)」という言葉が、母親だけを指すと誤解されたといわれています。

 この愛着理論が日本で広まったのは、1960年代後半から1970年代にかけてといわれています。高度成長期の最中に、父親が外で懸命に働き、母親は子育てに専念するという性別役割分業が一般化していった頃です。家庭で子育てを担うのは「母親しかいない」という現実が、いつのまにか「母親は家庭で子育てを担うべきだ」に変わっていったのではないかといわれています。

 また、3歳と結びつけられた理由は、複数の研究者が3歳児健診や幼稚園の入園年齢、そして「三つ子の魂百まで」ということわざなどの影響を挙げています。

 栃木県真岡市では、母子関係が希薄になっているとして「三つ子の魂育成推進室」を設置し、3歳までに 子どもの心を育てる目的で、乳幼児健診に来た母親らに講話などを行っているそうです。

http://www.city.moka.tochigi.jp/7,5406,18,135.html

  また、06年の内閣府調査では、9~15歳の子を持つ父母約2700人のうち約7割が「母親は、子どもが3歳になるまでは子育てに専念すべき だ」という考え方に賛成したと報告されています。 

 こうした声を背景にしたのか、安倍首相は今年4月、成長戦略の柱に女性の活用を掲げ、「3年間、抱っこし放題での職場復帰を総合的に支援する」と表明しました。子どもが3歳になるまで育児休業や短時間勤務を取れるよう「3年育休」を企業に要請し、3歳児神話を念頭に置いた発言ではないかなどと話題になりました。

 

 しかし、この神話には根拠がなく、三歳児神話を否定する研究は国内外で多数発表されています。

 国内では、大阪人間科学大学が、大阪府の80年生まれ約2千人を小学校入学時点まで追跡調査したところ、母親が働いて保育園等に子どもを預けているかどうかで、 発達に差はないという結果が出ています。

 また、お茶の水女子大の菅原ますみ教授(発達心理学)は、子どもの養育状況と問題行動との関連性を調べて、「小さい頃に母親が働いていたかどうかだけで差は出なかった。それほど子どもは単純でない」としています。

 海外で有名なのはNICHD(米国立小児保健・人間発達研究所)の調査ですが、この調査は、子どものいる約1千家族を生後1カ月から10年以上追跡し、養育したのが母親か母親以外かによって、子どもの発達には差がないと結論づけています。

 

 このような科学的な調査結果が出ても、国の制度を決める子ども子育て会議などでも、この三歳児神話と同じような根拠の無い風潮や感情を理屈として、制度に反映させようとする意見もあるようです。

 しかし、そういった神話が、子どもたちの生活や教育を歪めてしまわないことこそが大切であり、また母親だけに子育ての責任を負わせることも間違いです。
 さらに言えば、子どもが3歳になるまでは母親が家庭で子育てをすべきといった方向性は、日本の歴史の中で昭和の高度成長期頃から始まった風潮であり、それよりも前の時代は、三世代同居で家族がみんなで子育てを支え、家庭の子どもの教育やしつけは一家の主(男性)がその責を負っていたのです。

 どうやらこの「三歳児神話」は、日本国民の伝統的な生活が急速に変化する中でいろいろな情報や諺が影響して、いろいろな場面で言い訳や理由づけに使われてきたことで、風潮や感情として国民の間に定着したと見ることが妥当なようです。