おおたみんなの家

おおたみんなの家の園長ブログ

テレビのヒーローや戦隊ものの影響

 テレビやゲームの中に登場する「ヒーロー」は、決まって「正義」を掲げ、「悪」と対決して「誰か」を守る「強者」です。そのストーリーは私たち親が子どもの頃から今も基本的に変わりません。「ヒーロー=強者=正義」という姿は、子どもにとって憧れを抱かせますが、加えてヒーローは「悪」との対決に「暴力」を行使する存在でもあります。

 高度成長期以降から、子どもがテレビを見る頻度は格段に多くなり、効果音や特撮御術、映像技術といった演出効果等の技術革新も手伝って、私たちが意識しないうちに、想像・空想の世界のヒーローは「リアル」になってきました。ヒーローの武器や装具、変身道具はオモチャとして家庭に入り、子どものヒーローごっこは想像・空想して真似る遊びから、よりリアルを求めてなり切ろうとする遊びへと変化しました。また、ゲームの登場により、ゲーム中のヒーロー等に投影した自分の分身を自分で操って、敵と対戦する遊びへと変化してきました。さらに、ビデオやDVDという「見たい時に好きなだけ見れる」環境が整ってきました。そこには「ヒーロー=強者=正義=暴力」という価値観や映像が常に映し出され、子どもたちはそれを『楽しい』『面白い』『カッコいい』と認識しています。

こういった分析に対し、昔から子どもはそうだった、過剰な反応だという意見があります。その意見は否定しません。しかし、私たちが子どもの頃と比べて、今の子どもたちがテレビやDVDを見る時間、ゲームやヒーローグッズで遊ぶ時間は格段に増えました。また、家では常にテレビがついていて、親や兄姉がゲームや戦隊番組、DVD鑑賞などで遊ぶ環境の中、幼い子どもは無意識にそのテレビやゲーム等に触れて影響を受け続けて育ちます。また、そういった時間や機会が増えた分だけ、子どもが家族や友だちと豊かにコミュニケーションして遊んだり、親子で絵本に浸ったりする時間や機会が減ってしまったことは事実です。

家族で外食していても、親は携帯、子どもはゲームに夢中で会話の無い家族を見かけることがあります。また、電車内や待ち時間に携帯やゲームに夢中になる大人や子ども、そして、走る車の中でDVDやテレビを見ながら目的地に向かう家族など、あらゆる場面に「メディア」が存在し、ヒーローや戦隊が存在しています。その間、親子や家族の対話はほとんど無く、子どもはテレビやゲーム、DVDなどの世界に浸ってメディアから多大な影響を受けています。

テレビもDVDもゲームも適度に楽しむ分には問題ないと思います。ただ、テレビやゲームなどから子どもが受ける影響を親は十分に知っておき、わが子の発達や成長に「適度」とはどのくらい?無意識につけたテレビやゲームの映像や音の刺激が、わが子に及ぼす影響は?なども意識すべきでしょう。そして何より、親と子どもがたくさん対話をすることで、子どもはいろいろな事を考え、感じて育っていくことを、もっと大切にすべきでしょう。

赤ちゃんにミルクを提供する時に、母親が携帯イジリやテレビを見ることに気を取られ、ただ単に「飲ませる」という行為をしていると、子どもがミルクを飲んでいるのに癇癪を起こしたり、ミルクを飲もうとする意欲が低下したりするという実験の結果があります。子どもはミルクだけでなく、親との対話や表情を介したコミュニケーションを求めているのに、それが満たされないので泣くのでしょう。

また、ある視覚と脳の反応を検証した実験結果では、ヒーロー番組の特に暴力シーンで、子どもは恐怖心から興奮や昂揚を感じますが、映像の動きや光刺激、効果音などによって、幼い子どもの脳は「楽しい興奮や昂揚感」と錯覚する(させる?)危険があるようです。これは「つり橋効果」といわれる知覚と同じような効果のようです。この興奮や昂揚感が、子ども同士の関係性や遊びの内容に与える影響は決して小さくありません。

遊びで興奮した子どもが、通りすがりに周囲の子どもに暴力(小突く、たたくなど)を振るう場面などを観察していると、何かで興奮したりストレスがかかると、その子どもの中でヒーローやゲームキャラクターがイメージされ、それを真似たりなり切ってみたりという行動の流れが観察されるケースが少なくありません。興奮やストレスがヒーローなどの必殺技という暴力につながる可能性を示唆しているとみることもできます。

このように、テレビやゲーム、DVDのヒーローやキャラクターが子どもに与える影響は多大です。私たち親は子どもによい影響を与える責任と権利があり、子どもは親や周囲環境からの影響や刺激を、五感をつかって受動的かつ敏感に吸収します。テレビやゲームなどに費やす時間より、もっと多くの時間を親子の関わり遊びや対話に費やし、遊びの内容や友だちとの関わり方、子どもの価値観などに、親がよい影響を与える機会を増やしましょう。