おおたみんなの家

おおたみんなの家の園長ブログ

乳幼児期の育ちが私たちを支えている

 私たちは生活の中で実にたくさんの能力をつかっています。その能力は子どもが幼児期に体験をとおして身につけた、基礎的な能力を土台としているという研究成果があります。

 

 その代表的な研究として、アメリカの「ペリー・プレスクール調査」があります。1962~67年にかけてアフリカ系アメリカ人で家計水準の低い家庭の子ども123 名を対象として実施され、この子どもたちのうち、実験開始の時点では学校教育から落ちこぼれる危険が高いと評価された子どものうち 58 名にだけ、3~4 歳児を対象とした「質の高い就学前教育プログラム(high-quality preschool program)」を受ける機会が与えられました。そして、そのような就学前教育の経験の有無が、子どものその後の発育・成長プロセスにどのような影響を及ぼしているかを、11歳・14歳・15歳・19 歳・27 歳、および40歳の各時点において追跡調査されています。結果として「就学前教育プログラム」の受講機会を与えられた児童グループの方が、そうでないグループに比べ、その後の成長過程を通じてより高い学力水準・経済的水準に到達していると報告されました。

 ここでいう「質の高い就学前教育プログラム」とは、個人の主体性を尊重した学習活動(self-initiated learning activities)を中心に、大・小規模のグループ学習活動を組み合わせた保育手法が実践されています。

 また保育者は、子どもが様々な社会・学習スキル(主体性・社会関係・創造性・運動能力・音楽能力・論理的思考・読み書き能力・数学能力)を習得することができるよう“遊び”を軸とした生活全般を通して、多様な活動プログラムを提供することを役割とし、そのためにこの手法に関して定期的な研修を受講しています。

 この教育活動プログラムは、もともとヨーロッパ諸国の教育メソッドなどをもとにアメリカが独自に開発しましたが、今では先進国の教育の大きな潮流のひとつになっています。ただ、ここで強く気をつけたいのは、研究結果の一つとして「経済的または学力的に高水準に到達した」という表現がなされましたが、それはこの教育や研究の目的ではないということです。

 経済的または学力的に高水準に至るまでの過程の中で、幼児期にこの教育プログラムの中で体験的に身についた様々な能力が発揮され、挫折や失敗にも心が折れず、成功や達成を目指すことができた『プロセス(人生、生き方)』がこの研究の中心的視点、目的だと言えるでしょう。また、そのような育ちの中で親をはじめたくさんの大人が子どもにさまざまな影響を与えている、だから私たち大人こそ、継続的学びによって成長(変革)し続けるべきだと戒めていると読むことができます。

 だからこそ、乳幼児期の日常生活の中で、子どもたちには主体性や自発性を発揮しながら試行錯誤や模索などの創造的な活動が保障されることがとても大切です。

 決められた「正解」を導くために、大人が画一的かつ集団的に活動を統制するのではなく、子どもの興味や意欲に寄り添い、それを子ども自身の力で十分に満足できるよう配慮して活動しながら、その活動を通して、保育者や保護者の願いも達成できるよう環境などを整えていくことが必要になります。そのような子どもたちの願いと大人の思いが交錯して日々の生活が豊かに展開されるとき、子どもたちは奇跡のような成長や活動の発展を見せてくれます。